2009年8月25日火曜日

私の「雨にも負けず」

杉本です。波風たてているかも知れませんが、切実なので。

私にとっての「雨にも負けず」は、裏に深い悲しみをもった歌と感じてます。

この詩では、大部分で赤貧と奉仕と自己犠牲が歌われていますが、最後の数行でおかしな展開を示しています。
「みんなにでくの坊と呼ばれ」「ほめられもせず」「苦にもされず」と。これを、とくに評価されなくてもいいという思いの表現とはとらえにくい。
これはおかしなことですね。その前で歌われている奉仕と自己犠牲が正しいならば、多少なりとも感謝されるはずです。

私は、この歌の前半の大部分は、赤貧と奉仕と自己犠牲の「甘い夢」と感じています。そして作者はそのことを自覚しています。
たとえば、「子供の看病」のくだり、ここでは医者に見せる金もなく、薬を買う金もないような極貧の家族は想定されていません。そのような中に賢治が行ったならば、賢治は裕福な家庭の子息ですから、金を請われたかもしれません。
「死にそうな人」のくだりも、たとえば、自分はどうなってもいい、残される子供たちを何とかしてくれ、という切実な死の場面は想定されていません。
「けんかの仲裁」もそうです。仲裁するとは、時にうらまれ、わが身を危険にさらすということを感じさせていません。何かを口にして、聞いてもらえるような良い人のいる世界を夢想してます。

この詩は、苦しいまでに屈折しています。厳しい現実の前に無力な自分。自分のできることは、甘い世界での小さな行いを夢見ること。しかもそれさえもできるとは思えない。
「そういうものに私はなりたい」というとき、そういうものとは何か、なりたいとは何か。深い無力感の中でしぼりだされたうめきに思えます。

この詩の後半には、書かれていない行間がたくさんあると、だからきっと賢治はこれを発表しなかったと考えたい。

そういうわけで、私は悲しい苦しい詩として、これを読まざるをえません。

3 件のコメント:

  1. 切実な問題とのことなので、ここに書きます。簡単ですが。
    現代朗読では、テキストを扱うにあたって、作者の「意図」とか「思い」を考えたりはしません。なぜなら、作者はすでにそこにはおらず、そこにあるのは物質化された「テキスト」そのものだからです。
    なので、テキストそのものと朗読する本人(自分自身)の関係のみに注目します。
    テキストを自分がどう扱うか、自分の身体のなかでどう物質化するか(テキストの手触りを持てるか)。そして、そのテキストを「自分は」どう感じるか。
    「雨ニモ負ケズ」の詩には宮澤賢治はもういません。あるのは賢治が残した言葉である、という事実だけです。

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  2. 野々宮です。
    「雨ニモ負ケズ」は、現世での「常不軽菩薩」としての生き方を思い浮かべてみたものではないでしょうか。
    人に軽んぜられ、ものを投げつけられたり非難されていたという菩薩。
    そこには自己犠牲も屈折も悲しみすらありません。

    子どものころ、読書感想文で「私は~と思います」と書かされているうちに、自分の状況に引きつけてみたり、非常にウェットなとらえ方をするように“訓練”されてしまうのですよねえ。「テキストと向き合う」という訓練を受けていないと本当に難しいと常々感じますが、朗読という「声」を通じて改めてテキストの質感をとらえようとすることで、そこに少し近づける気がしています。
    ともあれ、常不軽菩薩はそのヒントと考えてみてください。

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  3. 常不軽菩薩とはなんでしょうか。それはテキストとどのように関係しているのでしょうか。
    いや、逆ですね。
    テキストの何がどうでありますか。「常不軽菩薩」とはどのような概念ですか。そして、テキストの何が「常不軽菩薩」なのですか。

    「でくのぼう」とよばれたのですから、軽んぜられてますね。様々な他者への行いは、自己犠牲というよりは奉仕かもしれません。ただし奉仕が重なると自己犠牲の意味合いを感じてしまうのですが、間違いでしょうか。
    ものを投げつけられたり・・? 非難されていた・・?
    テキストのどこに、そのイメージがあるのか、僕にはわかりません。

    ちなみに、私の解釈は、生理的に自分を納得されるための無理やりの解釈の側面も多少あります。

    そもそも、私は何を書いたのでしょうか。書くべきではなかったですね。宮沢賢治を語ると、宗教論争になりかねません。

    宮沢賢治は嫌いではありません。

    イデオロギーの時代ではない現代では、個人の生活のありようのみに読めるこの詩は、肯定的にとらえられるかもしれない。ただ、「せめて」こうありたい、と祈りとも思えるこの詩の悲しみの部分を感じざるをえないのです。

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